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tsuharayasumi

  1. 「この子ったら、頭は大丈夫かしら。だったら夜はそこらじゅう、ぎっしりとおばけだらけってことになっちゃうわ。そいつら昼間はどうしてるの? ブラジルに移動してるの?」
  2. どうやらミドリちゃんの世界観では、おばけは橋のたもとと、高い場所に出るもので、でも親指を隠していれば会わずにすむらしい。「おばけって暗い所に出るんじゃないの」
  3. ところが橋の上で、今度はこう言って笑われた。「いつまで親指を隠してんの。たもとを過ぎたらもう大丈夫なの。でも高い所も気をつけなさいよ。用もなく屋上なんかに行くんじゃないよ」
  4. 下手に逆らってうるさくされたくなかった男の子は、ミドリちゃんの真似をして、歩調も彼女に合わせて川を渡りはじめた。
  5. すると彼女は顔をものすごく近づけ、声をひそめてこう訊いてきた。「あんた、おばけに会いたい? 恐ろしさで人相まで変わってしまうよ」
  6. 「だから、だれと会うの」
  7. 「橋のたもとでは、ちゃんとこう、隠しなさいったら」見ればミドリちゃんは、両手とも、親指をほかの指の下にぎゅっと握りこんでいる。
  8. 男の子は思わず立ち止まった。「だれに?」
  9. 「早く手の中に隠して。さもないと、会うよ」
  10. 親指?
  11. 「ちょっとあんた」と、けっきょく気づかれちゃった。「親指!」
  12. 男の子がその橋を渡ろうとしていたら、前方をミドリちゃんがよたよたと歩いてて、つかまるとまためんどくさいから、黙って追い越そうとしたことがある。
  13. 団地の外れに大きな川が流れていて、国道沿いのショッピングモールに用のある人は、みんなそこに掛かった長い橋を行き来する。
  14. ときどき、お伽噺の世界から出張に来てるんじゃないかと思うほど、時代がかったことを言うんだ。
  15. すると百歳をとうに越えてる計算だけど、彼女のいろんな言動を思い返すにつけ、そうでも不思議はないって気がした。
  16. ミドリちゃんも一八九三年生まれなのかな。
  17. もし「リリアン・ギッシュとはどういう人物ですか」と先生に問われたら、今のところ、こう答えるしかないね。「ぜんぶ足してまた足すと9になる日に生まれて、九十九歳まで生きた人です」
  18. リリアンさんの出ている映画をテレビでやらないかなあと思っているけれど、まだチャンスがなくて、男の子は彼女の顔も知らない。
  19. また足してみた。2+7=9。
  20. 1+8+9+3+1+0+1+4=27。